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大阪地方裁判所 昭和37年(レ)285号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、よつて、被控訴人が主張する、控訴人の修繕義務と被控訴人の賃料支払義務とは同時履行の関係にある旨の主張、および、必要費償還請求権と延滞賃料とを対当額をもつて相殺する旨の抗弁について、考えてみる。

(一) 本件家屋のわら葺屋根が、約年毎にこれを葺き替える必要があること、被控訴人が、昭和二五年のジエーン台風(この台風が同年九月に来襲したことは公知の事実である)以後、昭和三四年一月までの間に、前後四回にわたり本件わら葺屋根の葺替えを自費で行なつたこと(但し、それが部分的になされたか全面的になされたかは明らかでなく、又葺替えに要した金額の点を除く。)、控訴人が被控訴人に対し、右葺替え費用を償還していないことは、いずれも弁論の全趣旨によつて明らかなところである。

(二) 控訴人は、本件わら葺屋根の一回の葺替えに要する費用(一万余円)を、控訴人において負担しなければならないとすれば、本件家屋を低額な賃料をもつて賃貸している控訴人が、これによりなんらの収益をあげ得ないのみか、却つて、債務を負担しなければならないという不合理な結果を招来することから考えても、控訴人には、右葺替え費用償還義務がないというけれども、賃料が統制されている家屋について大修繕若しくは著しい改良工事がなされたときにおいては、統制賃料額の増額の認可を知事に申請し得ることは、地代家賃統制令第七条第一項第一号(改正前の同号には大修繕なる文言がないけれども、これを含む趣旨であると解される)に規定しているところであつて、わら葺屋根の葺替えを賃貸人がしたときは、同条による賃料増額認可を受けることができるわけであるから、本件わら葺屋根の葺替え費用を控訴人に負担させても、これによつて不合理な結果を招来するということができない。従つて、控訴人の右主張はそれ自体理由がない。

(三) しかしながら、≪証拠略≫を総合して認められる次の事実、即ち、(1)本件家屋は、七、八十年前に建てられた古い家屋で、被控訴人の先代が約四〇年前からこれを賃借していたものであるが、昭和二二年末までの賃料が月額四円に過ぎなかつたのに、右賃料の支払いすら滞りがちであつたこと、(2)昭和二五年九月のジエーン台風後被控訴人の先代が死亡したが、それ以前においては、本件家屋の賃料の支払い等本件家屋についての控訴人先代と被控訴人との交渉は、一切これを被控訴人の先代がしていたため、被控訴人は前示賃料延滞の事実すらこれを知らなかつたこと、(3)ジエーン台風当時、本件家屋の内東側約三分の一の部分を賃借していた賃借人も、被控訴人が本件屋根を葺き替えたのと同じ頃に、右台風によつて吹き飛ばされたわら葺屋根の葺替えを自費で行なつたことが窺知されること、(4)昭和二八年頃、右東側約三分の一の部分を、その床面積が被控訴人賃借部分のそれに較べて約二分の一に過ぎないのに、賃料は逆に当時の被控訴人の賃料月額二〇〇円の倍額四〇〇円の定めで、新たに控訴人から賃借した訴外菱田彦太郎も、控訴人との当初の約束により、その後二回に亘つて行なつたわら葺屋根の葺替えを、すべて自己の負担においてしていること、(5)被控訴人が、昭和二九年二月一五日頃、控訴人に対し、本件家屋の延滞賃料支払いのため金一、二〇〇円を提供し、これを、昭和二四年一月分から昭和二五年一二月分まで月額四〇円の割合による賃料金九六〇円、昭和二六年一月分賃料金二〇〇円(右提供の際同月分から右賃料額に増額の約定成立)、および同年二月分の賃料の内金四〇円の弁済に充当し、昭和二八年一二月末日までのその余の延滞賃料は一時に支払うが暫時猶予されたい旨懇請するとともに、昭和二九年一月分からは、賃料を月額三〇〇円に増額して支払う旨約し、爾来昭和三二年二月一九日までの間に、昭和二九年一月分から昭和三一年五月分までの賃料を遅延しながらも支払つてきたが、その間、被控訴人において、本件わら葺屋根の葺替え費用のことについては、控訴人に対し、なんらの申し入れをしていないこと等の諸事実を考え合わせると、控訴人の先代田中吉治良において、本件家屋が前示のとおり古い家屋であり、賃料も低額である上に、終戦後の経済状態の激変等の事情もあつて、屋根の葺替えを自己の負担で行なつてまで、本件家屋を貸したくないと考えた結果、昭和二一、二年頃、被控訴人若しくはその先代に対し、爾後屋根の葺替えは被控訴人においてこれを負担してもらいたい旨申し入れ、被控訴人若しくはその先代においてもこれを承諾した事実が推認され、右認定に反する前掲証人北野ミサヱの証言、並びに、被控訴人本人尋問の結果の各一部は措信し難く、他に右認定を覆えすに足る明確な証拠がない。

(四) そうすると、控訴人には、本件屋根の葺替え義務、および、被控訴人が支出した本件屋根の葺替え費用を償還する義務がないわけであるから、これあることを前提とする、被控訴人の同時履行の主張、および、延滞賃料との相殺の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく、失当であるといわわねばならない。(下出義明 寺沢栄 喜多村治雄)

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